「スキンシップが大切」ってよく言われるけれど、なぜだろう。心が重たいとき、子どもの柔らかい手を握ると楽になることがある。手で触れて痛みを癒すことから「手当て」という言葉ができたと聞いたこともあるけど、触れ合うことにそんな力があるの? 山口先生に聞いてみよう。
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―――― スキンシップが大切というのはどうしてですか?
私たちがコミュニケーションをとるとき、言葉が果たす役割はどのくらいかご存知でしょうか?たった2割です。では、言葉以外にどんなコミュニケーションの方法があるでしょう。表情、身振り手振り、そして身体接触、そう、スキンシップです。
動物を見ていると、親が子をなめてきれいにしたり、毛並みを整えあったりしています。これはお互いの信頼感を高めるコミュニケーションであるといわれています。私たち人間も同じ。スキンシップは、心を通わせるとても重要なコミュニケーションなのです。
ところが、私たち人間は、スキンシップをはじめとする非言語コミュニケーションを軽視する傾向があります。とくに、高度成長期以降、言葉や文字が高度なものとされ、動物本来の感覚のもつ力は、一段低いものとして扱われているのではないでしょうか。
もともと日本人はスキンシップが多い民族ではありません。欧米人などと違い、挨拶に握手やハグ(軽く肩を抱き合う行為)をする人は少ないですね。ですが、子どもとのスキンシップはむしろ多いはずです。赤ん坊だけでなく、幼児のうちは、母親や祖母、姉や乳母など、誰かしらにおんぶされているのが暮らしの中でよく見かける風景でした。子どもたちはいつも暖かい肌を感じて育っていたわけです。
最近、自分の赤ちゃんをしっかり抱っこできない母親が増えています。かつてのように大家族で暮らし、赤ちゃんがいつも身近にいる時代ではないので、初めての子どもにはたいてい戸惑うものですが、何ヶ月たっても慣れないのです。母親自身、幼少時代におとなとのスキンシップが不足していたのかもしれませんし、スキンシップを軽視する社会背景が影響しているのかもしれませんが、このことは赤ちゃんにとっては大問題です。
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―――― 子どもにとってのスキンシップには、どんな力があるのでしょうか。
子どもにとって肌が触れ合うことには、どんな意味があると思いますか。米国には赤ちゃんのときから部屋を与え、夜泣いても抱っこしないという文化もあります。日本でも「抱き癖がつく」として、子どもが望むままに抱っこすることをよくないとする考え方もありますが、私は抱き癖がつくくらいできる限り抱っこしてやるほうがよいと考えています。
肌が触れ合うことで人は安心します。幼い日々に、心の底から安心して育つことで、心のよりどころができるのでしょう。精神のバランスがとれ、困難に直面しても乗り越えていける人となれると考えられます。
ですが、現実には、いつでも乞われるままに抱っこしてやるのは難しい。育児に不慣れな親にとっては、抱っこしてやらねばならないという思いだけでもストレスになるかもしれません。そんなときは“ちょいだき”を試してみてください。夕食の準備で忙しいときに「抱っこして」と言われたら、「だめ」と言わずにちょっとだけ抱っこする。キッチンから風呂の準備に移動するとき、またちょっとだけ抱っこする。“ちょいだき”を繰り返すことで、子どもは安心し、母の心も安定します。
人の皮膚はとても不思議な存在です。全身をおおう、この薄い膜には、思いも寄らない高い能力が秘められています。たとえば、「肌が感じる」「人肌恋しい」「肌の感覚が覚えている」といった表現がありますが、文字通り、皮膚が記憶するという可能性も指摘されています。脳には記憶を蓄積する海馬という組織がありますが、この海馬にある細胞と同じ細胞があるのは唯一皮膚だけです。子供のころのスキンシップは、肌の記憶に一生残ると言ってもいいかもしれません。
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―――― 外遊びが心の成長によいと聞きますが、どういうことでしょうか。
触れ合う経験は、人との距離を見極め、相手の気持ちをおもんばかるためにも必要です。おしくらまんじゅうや馬とびといった昔からの子どもの遊びは、友だちとからだ全体で触れあい、押し合い、相手のからだを感じ取る絶好のチャンスでした。強く押すことで相手が感じるかもしれない不快さは、自分の感覚でもありました。馬とびで重たい友だちにのしかかられた経験があれば、多少の衝撃に切れて殴り返すこともないでしょう。運動が健全な心を育てるといいますが、ひとりで筋トレしていても心は育たない。思いっきり友だちと外で遊んでこそ、からだと心が安定し、相手を思いやる心も育つのです。
虐待を受けた子どもは、つねに緊張状態に置かれるため筋肉が硬くなっていくといいます。中でもネグレクト(必要な世話や配慮を怠る虐待)を受けた子どもに、その傾向は顕著です。からだの状態は心の状態に影響するので、からだに柔軟性がなければ心も頑なになりがちです。逆を考えれば、十分に触れ合える暖かい人間関係が、からだも心もリラックスした状態をつくるということが理解できるでしょう。
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―――― 子どもは既に大きくなってしまったので、間に合わないでしょうか。
もっとスキンシップをして育てればよかった。もう手遅れだ、と思う必要はありません。接触療法は、おとなのセラピーに使われているくらい。今からでも、遅くはないのです。ただし、自分の子どもでさえ、ある程度大きくなった人にいきなりスキンシップを求めるのは、かえって逆効果です。肩に手を乗せる、柔軟体操を一緒にするといったところから入っていくとよいでしょう。
人には“最低スキンシップ必要量”というものがあります。これに達しないと精神が不安定になりがちです。女性は母として子供に接する機会も多いのですが、父親に“スキンシップ必要量”を満たさない人が多いといいます。
子どもたちだけでなく、世のお父さんたちも肌の触れ合いをもっと大事にしてほしい。相撲でも柔軟体操でも、日頃からどんどんスキンシップしてください。奥さんの肩をもんであげてもよいでしょう。信頼関係を確かめること。それは円満にこれからをともに過ごすためにとても大切なことのひとつだと考えています。
ありがとうございました。
山口創(やまぐちはじめ)
臨床心理学・身体心理学専攻し、現在、桜美林大学准教授。臨床発達心理士。
著書
・子供の「脳」は肌にある 2004 光文社新書
・「皮膚感覚の不思議」 2006 講談社ブルーバックス ほか








