届かなかったラヴレター
2017年新川てるえ賞~中村木綿 さん
切ない気持ちや感謝の気持ち、大好きだったあの人への想い・・・毎年、大切な人への思いを綴ったラヴレターを募集している「届かなかったラヴレター」。これまでご応募いただいた「届かなかったラヴレター」をご紹介します。
夜、遠い記憶のどこかに無理やり仕舞っていたはずの彼女から不意に連絡があった。
まだ彼女と付き合っていた頃、ソファーで眠る僕の頭を目掛けて彼女はコピー用紙で折った紙飛行機を投げた。
広げたその紙には大きな字で「好き」と書かれていて、子供じみた愛情表現に顔をしかめる僕に彼女は満足そうな笑顔を見せた。
彼女が僕の元からいなくなってから、彼女の残した部屋着も歯ブラシも何もかも捨てたけれど、なぜだかその紙飛行機だけは僕はずっと捨てられずにいた。
「今度、結婚するんだ」
電話口から聞こえる彼女の報告に、僕は「よかったね、おめでとう」と答えてから、日に焼けた紙飛行機に「お幸せに」と書き添えて、ベランダから夜空へ向かってそっと投げ放った。
「届かなかったラヴレター」次回の募集についてはキャリア・マムサイトやメルマガでお知らせします。 過去の受賞作品はこちらでご覧いただけます。