届かなかったラヴレター
2016年新川てるえ賞~やまたい さん
切ない気持ちや感謝の気持ち、大好きだったあの人への想い・・・毎年、大切な人への思いを綴ったラヴレターを募集している「届かなかったラヴレター」。これまでご応募いただいた「届かなかったラヴレター」をご紹介します。
夫婦になってずいぶん長い年月が経ったんだね。
施設のベッドの上で、きみは昔の話をする。子供も孫もいる、そう話すのにもう自分が誰だかも、私が誰だかも、わからなくなってしまったようだね。
お医者さんは、認知症が進んでいると、私に申し訳なさそうに説明した。
きみは遠くを見つめるようにして、一日を過ごす。
それでもいいんだ。ここまでよくやってくれた。私とともにずっと一緒の時を過ごしてくれた。
きみはどんどん赤ちゃんの頃に戻っていくだけだ。
たくさんの喜びや悲しみを私と一緒に経験して、それから最期の時に向けて、ゆっくりと安らかに人生を戻っていっているのだ。
そんなきみを見ると涙がこぼれてしまうこともあるけれど、私はこれまでの思い出を作ってくれたことを、子供を大切に育ててくれたことを、忘れない。
最後まで一緒に居よう。白く、薄くなった髪を今日も撫でながら、きみのそばに居たいと思うだけだ。
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