お父さん、びっくりしました。あなたの仕業ですね。
「すごいのよ!庭中、彼岸花で真っ赤なの」母が、乙女のような弾んだ声で電話をかけてきました。写メ送って!と言うと、「写メの使い方、忘れちゃった」と、とぼけたことを言うのです。
実家へ帰ると、庭に、真っ赤に燃える彼岸花に埋もれる母がいました。
まるであなたに抱かれているように。
あなたが亡くなる前、庭中に植えたのですね。母さんへの最後のラブレターを。
母が、写メの使い方を忘れたと言ったのは、あなたを独り占めしたかったのでしょう。
伝えときましたよ。
「母さん、彼岸花は、毒あるし、地獄花とか死人花とか、不吉な花のように言われるけど、花言葉は『思うはあなた一人』っていうのよ」と。
お父さんが遺した最後のラヴレターは、庭一面の彼岸花。真っ赤に燃える花に抱きしめられ、乙女のように声を弾ませるお母さんが目に浮かびます。天国のお父さん見て微笑んでいる、そんな想像もかきたてられました。
コピーライターを経て脚本家に。映画作品に『パコダテ人』『子ぎつねヘレン』『ぼくとママの黄色い自転車』ほか。テレビ作品に朝ドラ「てっぱん」「昔話法廷」「おじゃる丸」(以上NHK)ほか。絵本『わにのだんす』、聞き手を務めた『産婆(さんばば)フジヤン』、故郷の大阪府堺市を舞台にした映画『嘘八百』(脚本:足立紳今井雅子)の小説版などの著作も手がける。最新刊『来れば?ねこ占い屋』(絵:吉田戦車 占:タナミユキ 文:今井雅子 猫監修:山本宗伸)6/12小学館より発売。
(http://www.masakoimai.com)