夜、遠い記憶のどこかに無理やり仕舞っていたはずの彼女から不意に連絡があった。
まだ彼女と付き合っていた頃、ソファーで眠る僕の頭を目掛けて彼女はコピー用紙で折った紙飛行機を投げた。
広げたその紙には大きな字で「好き」と書かれていて、子供じみた愛情表現に顔をしかめる僕に彼女は満足そうな笑顔を見せた。
彼女が僕の元からいなくなってから、彼女の残した部屋着も歯ブラシも何もかも捨てたけれど、なぜだかその紙飛行機だけは僕はずっと捨てられずにいた。
「今度、結婚するんだ」
電話口から聞こえる彼女の報告に、僕は「よかったね、おめでとう」と答えてから、日に焼けた紙飛行機に「お幸せに」と書き添えて、ベランダから夜空へ向かってそっと投げ放った。
今回は男性のロマンチックな作品が多くあり、実は女性よりも男性のほうがロマンチストなんだろうなって思いながら審査しました。中でもこの作品はドラマのように場面をイメージさせられる作品で、切なく、綺麗で、感動しました。
1964年、東京都葛飾区生まれ。千葉県柏市育ち。10代でアイドルグループのメンバーとして芸能界にデビュー。その後、2度の結婚、離婚経験を生かし97年12月にインターネット上でシングルマザーのための情報サイト「母子家庭共和国」を主宰。シングルマザーコメンテーター・家族問題カウンセラーとして雑誌、テレビなどに多数出演。2002年子どもの健全育成と家庭問題に悩んでいる女性の自立支援のためのNPO法人Winkを設立。2014年11月よりNPO法人M-STEP理事長に就任。
(http://m-step.org/)