くやしいけど
父さんは強くて器用で度胸満点で色男だ
非力・臆病・不器用と真逆に三拍子揃って
色男でもないくせに金もない俺とは大違い
くやしいけど
父さんは俺よりもずっと俺が好きだった
父さんは俺よりもずっと俺を信じていた
俺の幸せを俺よりずっと喜んでくれた
くやしいけど
父さんはこの世で一番多く俺を笑顔にした
俺は父さんの百分の一いや千分の一も
父さんを笑顔にしてやれなかったなァ
くやしいけど
タカがトンビを生んだらしい
トンビだってタカを生む
タカだってたまにはトンビを生むのだろう
くやしいけど
俺はそんな父さんが嫌いになれない
くやしいけど
俺は父さんみたいな男になりたい
男の子にとって、父親とは「よき理解者」であり、「人生のお手本」でもあり、いつか乗り越えなければいけない「高い壁」でもある。すべてを兼ね備えた理想的な父親なんて現実にはいないのかもしれないけど、少なくともこの方にとって「父さん」はスーパーマンのような存在だったのでしょう。だからこそ疎ましくもあった。父と息子との絆って、一筋縄ではいかない複雑なものだと改めて教えてくれる手紙でした。
1974年、京都市生まれ。アジアの辺境を旅しながら、「笑顔」と「働く人」をテーマに写真を撮り続けている写真家。旅した国は38ヶ国。著作に「渋イケメンの世界」「渋イケメンの国」「アジアの瞳」「スマイルプラネット」などがある。現在は、旅の経験を生かしたフォトエッセイの執筆や講演活動を精力的に行う一方、広告写真やCM撮影など、仕事の幅を広げている。
(http://www.tabisora.com)