届かなかったラヴレター
匿名
切ない気持ちや感謝の気持ち、大好きだったあの人への想い・・・毎年、大切な人への思いを綴ったラヴレターを募集している「届かなかったラヴレター」。これまでご応募いただいた「届かなかったラヴレター」をご紹介します。
高校生の頃文芸部に入っていた。
通学の時、
同じ田舎の駅で下車する
ろう学校の生徒たちがいた。
そのなかに大変可愛らしい女の子がいて、
時々目を合わせるが
ただ黙って見つめ合うだけだった。
一度階段を下りるとき、
彼女がハンカチを落とした。
真っ白い小さな花柄のハンカチだった。
私がそれを拾い彼女に渡すと、
彼女は私を見つめて
恥じらうように笑った。
その切ないような目が印象に残った。
彼女は口がきけなかったのだ。
卒業式の日、
私は紙片をポケットに忍ばせていた。
式を終えて、
白いフリージアの花束を抱いた彼女が
友達と話しながら駅にやってきた。
いつもの笑顔。私は胸が苦しくなった。
友達と一緒だから彼女に近づけない。
電車が入り彼女が乗車した。
電車の窓からあの時のように
彼女がじっと私を見ていた。
「一言もことばを交わさぬままありて、
今日卒業の君が微笑む」
歌はポケットに仕舞われたままになった。
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